Datadog と CloudWatch の使い分け - 併用時の二重課金まで含めた判断基準
AWS を使っているなら CloudWatch は既にそこにあります。それでも Datadog を足す価値はどこにあるのか。メトリクス・ログ・アラートの層ごとの対応関係と、連携時に AWS 側へ発生する費用まで含めて、双方の公式一次情報だけで判断基準を組み立てます。
前提の違い - 「AWS の一部」と「どこでも動く一枚のガラス」
CloudWatch と Datadog の比較は、同じ土俵の 2 製品を並べる話ではありません。CloudWatch は AWS に組み込まれた監視機能で、EC2 や Lambda を動かせば基本的なメトリクスが設定なしで流れ込みます。追加のアカウント契約も、エージェントの導入 (基本メトリクスの範囲) も要りません。一方の Datadog は AWS・他のクラウド・オンプレミス・SaaS を問わずデータを集めて 1 つの画面に束ねる独立系のプラットフォームで、AWS のデータは連携設定を通じて取り込みます (2026 年 8 月時点・出典: Datadog AWS インテグレーション)。この出発点の違いが、費用構造から運用の景色まで全部を決めます。判断を誤ったときの困り方も対照的です。CloudWatch で足りる環境に Datadog を入れれば、ホスト単価分の固定費がまるごと過剰投資になります。逆に複数システムを横断調査すべき環境で CloudWatch だけに留まると、障害のたびにアカウントとコンソールを行き来して原因を突き合わせる時間が調査のたびに発生します。どちらの無駄が自分の組織で大きいかが、この比較の本当の論点です。なお、本記事の価格は各時点の実例であり、執筆後の価格改定を反映するものではありません。
層別の対応表 - 課金単位が根本から違う
機能の対応関係と課金単位を層ごとに並べると、両者の設計思想の違いがそのまま見えます。
| 層 | CloudWatch | Datadog |
|---|---|---|
| 基盤メトリクス | AWS 標準メトリクスは追加費用なしで自動収集 | インフラ監視 Pro: ホストあたり月 15 ドル (年契約) |
| カスタムメトリクス | 1 メトリクスあたり月 0.30 ドル (最初の 1 万個) | ホストあたり 100 個 (Pro) を基本料金に同梱・アカウント全体で合算 |
| ログ取り込み | 1 GB あたり 0.50 ドル (Standard クラス) | 1 GB あたり 0.10 ドル + インデックス 100 万イベントあたり 2.50 ドル (30 日保持・年契約) |
| アラート | アラームメトリクス 1 つあたり月 0.10 ドル (標準解像度。高解像度は 0.30 ドル) | モニター数を単位とする SKU は料金ページに掲載なし |
| 分散トレース | Application Signals と X-Ray が担う (スパン取り込みの GB 課金 + トレース課金) | APM: ホストあたり月 31 ドル (年契約・インフラ監視と併用時) |
読み取るべき違いは 2 つあります。第 1 に、CloudWatch は使った分だけの純粋な従量制で、固定費がありません。少量なら圧倒的に安く、無料枠 (カスタムメトリクスと詳細モニタリング分の合算で 10 個・アラームメトリクス 10 個・ログ 5 GB・カスタムダッシュボード 3 個) だけで収まる小規模環境すらあります。これは CloudWatch が明確に勝る点です。第 2 に、Datadog はホスト単価に多くを同梱する構造です。カスタムメトリクスで比べると、CloudWatch は 1 個ずつ月 0.30 ドルが積み上がるのに対し、Datadog はホストあたり 100 個が月 15 ドルの基本料金に含まれます。1 ホストで 100 個使い切る使い方なら、メトリクス部分の実効単価は CloudWatch の 30 ドル相当に対して大きな差になります。メトリクスを濃く取る運用ほど、Datadog の同梱型が効いてくる構造です。
連携の仕組みと「二重課金」の正体
Datadog で AWS を監視する場合、データを運ぶ経路そのものに AWS 側の費用が発生します。これが俗に二重課金と呼ばれるものの正体で、仕組みを知れば管理可能な追加費用です。経路は 2 つあります (2026 年 8 月時点・出典: Datadog AWS インテグレーション)。
- 標準の API ポーリング - 追加設定なしで動作。新しいメトリクスの取得は平均 10 分ごと
- CloudWatch Metric Streams - Amazon Data Firehose 経由の配信。レイテンシ 2〜3 分・別途セットアップが必要
費用面では、Metric Streams はメトリクス更新 1,000 件あたり 0.003 ドルが AWS 側に課金されます (2026 年 8 月時点・出典: CloudWatch 料金ページ)。また Datadog 公式ドキュメントには、リソース収集の有効化が CloudWatch のコストに影響し得るという注意書きがあり、影響を抑える設定 (AWS/Usage メトリクスの無効化) も案内されています。つまり「Datadog に払っているのに AWS からも監視関連の請求が来る」のは異常ではなく設計どおりの動きです。見積もりに含めるべき項目が Datadog の SKU だけでは閉じない、という点を導入前に押さえておけば驚きはありません。逆に言えば、更新間隔を平均 10 分から 2〜3 分へ縮める Metric Streams の価値を、1,000 更新あたり 0.003 ドルという具体的な値段で天秤にかけられるということでもあります。アラートの即応性が問われる本番環境ほど、この 7〜8 分の差は安い買い物になります。
CloudWatch で足りるケース、Datadog が効くケース
判断は条件分岐で考えるのが正確です。まず CloudWatch で足りる典型は、監視対象が AWS にほぼ完結していて、ホスト数台から十数台の規模で、調査の中心がログであるケースです。無料枠と純粋な従量制のおかげで、この規模では月額が数十ドルに収まることも珍しくなく、固定費ゼロの利点が最大化されます。この土俵で CloudWatch に費用で勝つのは困難です。一方で Datadog が効く条件は明確で、第 1 に監視対象が AWS の外に広がっているときです。他クラウド・オンプレミス・SaaS のデータを 1 つの画面で扱う能力は、AWS 組み込みという CloudWatch の出自と表裏で、CloudWatch 側にはない土俵です。第 2 に、メトリクス・ログ・トレースを行き来する横断調査が頻繁なときです。Datadog は APM のトレースから該当時刻のログへ、ログからホストのメトリクスへと 1 つの UI の中で移動する設計で、オブザーバビリティの 3 本柱を同一製品内で完結できます。第 3 に、カスタムメトリクスを濃く取る文化があるときです。前述のとおり CloudWatch の 1 個 0.30 ドルは、アプリケーション指標を数百個単位で取り始めると急速に積み上がり、ホスト単価に同梱される Datadog の構造が相対的に安くなっていきます。要するに「規模が小さく AWS で閉じるなら CloudWatch、システムが横に広がり調査が日常業務になったら Datadog」というのが、双方の公式料金から素直に導ける結論です。そして成長しているシステムは、たいてい後者へ向かって進みます。
現実解は併用 - 役割分担の設計
実務では「どちらか一方」ではなく併用に落ち着くことが多く、これは妥協ではなく合理的な設計です。CloudWatch は AWS 標準メトリクスの収集器として動き続け (これを止める理由も方法もありません)、Datadog はそれを吸い上げて調査と可視化の主戦場になる、という役割分担です。この構成での設計指針は 3 つあります。第 1 に、閲覧と調査の入口を Datadog に一本化すること。入口が 2 つあると障害時にどちらを見るかの判断が挟まり、チーム内の共通言語も育ちません。モニターとアラートを Datadog 側に寄せれば、通知の設定・抑制・エスカレーションの規約を 1 か所で管理できます。第 2 に、AWS 側にも最後の砦を残すこと。Datadog への経路自体が止まる障害に備え、死活に関わる最小限のアラーム (標準解像度のアラームメトリクス 1 つあたり月 0.10 ドル・2026 年 8 月時点) を CloudWatch 側に置く構成は、二重化の費用として十分安いものです。第 3 に、ログの置き場所を流量で選ぶこと。Datadog のログは取り込み 1 GB あたり 0.10 ドルとインデックスの二段構えで、調査に使うログだけを選んでインデックスする設計ができます (詳しくはログ管理の解説を参照)。全体の見積もりを組み立てる際は、Datadog の料金体系の読み解き方で整理した「課金単位から読む」手順がそのまま使えます。CloudWatch を土台に残しながら、日々の調査体験を Datadog に寄せる。それが 2026 年 8 月時点の両者の料金と機能から導ける、最も実務的な着地点です。