Datadog と Dynatrace の比較 - 単一単価の DPS と 3 価格制はどこで分かれるか
同じフルスタック監視でも、請求書の作られ方はまったくの別物です。SKU を積み上げる Datadog に対し、Dynatrace の DPS は年間コミットをレートカードの時間単価で取り崩します。並べて比べられる費目だけを数字で並べ、単位系が違う費目は換算せずに切り分けました。
幅で組み合わせる Datadog、1 本で貫く Dynatrace - 思想は請求書に現れる
Datadog と Dynatrace は、どちらもメトリクス・トレース・ログを 1 か所に集めるフルスタック監視の SaaS です。ただし製品の組み立て方は対照的です。Datadog はインフラ監視・APM・ログ管理といったプロダクトを必要な分だけ足していく水平型で、公式料金ページには 1,000 を超えるインテグレーション (「1,000+ integrations」・2026 年 8 月時点) が掲げられ、公式ドキュメントには日本語版 (docs.datadoghq.com/ja/・2026 年 8 月時点) が用意されています。対する Dynatrace は、OneAgent と呼ぶ単一のエージェントを入れるとプロセスやサービス、依存関係の自動発見からコードレベルの計測までが一体で動き、集めたデータは Grail というデータ基盤に収まり、因果関係の特定は Dynatrace Intelligence と総称される AI 群が担う、という垂直統合型です (2026 年 8 月時点の公式表記)。この思想の差は、そのまま請求書の形に現れます。部品を選んで組む Datadog は部品ごとの値札を公開し、全体を 1 つのプラットフォームとして売る Dynatrace は全機能を 1 枚のレートカードに載せる。機能一覧の丸とバツを数えるより、このお金の流れ方の違いを先に押さえるほうが選定は早く終わります。本記事は両社の公式サイトで確認できる一次情報だけを根拠に、その分かれ目を探します。料金の数字はすべて公式料金ページとレートカードの値です。
課金の骨組み - 3 つの価格表と 1 枚のレートカード
Datadog の料金ページでは、同じ SKU に 3 つの値が併記されます。年間契約の単価、月間契約の単価、そして契約量を超えた分に適用されるオンデマンド単価です。たとえばインフラ監視 Pro はホストあたり月 15 ドル (年契約) ですが、オンデマンドでは 18 ドルと 2 割高くなり、ログの 30 日保持インデックスでは 100 万イベントあたり 2.50 ドルに対し 3.75 ドルと 5 割の開きがあります (いずれも 2026 年 8 月時点・US リージョン)。詳しい読み方は料金体系の読み解き方に譲りますが、読みが立つ基礎使用量を年契約で安く押さえ、読み切れない変動分をオンデマンドで受けるという設計の自由度と、超過分は割高になるという緊張感が同居した体系です。Dynatrace の課金は DPS (Dynatrace Platform Subscription) と呼ばれ、骨組みが根本から違います。
- 年間の最低支払額 (コミット) を決める - 額が大きいほど割引率が上がるが、割引率そのものは非公開
- 全機能を 1 枚のレートカードの公開単価で消費する - 単位は費目ごとに決まり、ホストの時間 (host hour・端数は 15 分に切り上げ)、メモリ容量 × 時間 (GiB hour)、ログの GiB、セッションやデータポイントなどが並ぶ
- コミットを使い切った後も、同じ単価のまま月次精算で使い続ける - 超過による割増なし
公開されている単価は 1 種類だけで、年契約とオンデマンドの区別が存在しません。公式 FAQ は「ペナルティ型の超過課金は行わない」と明言しており、コミット超過後も事前購入と同じ単価の月次課金です。料金ページには「シート無制限・ユーザー数課金なし」が明記され、レートカードには「業界唯一の時間課金」という自社の看板も掲げられています (いずれも 2026 年 8 月時点)。ここで読み手が押さえるべきなのは、この公開単価が定価 (List Price) であり、実際の支払単価はコミット規模に応じた非公開の割引の先にある、という点です。Datadog の 3 価格が交渉なしで確定する見積もりを作れるのに対し、Dynatrace の見積もりは営業との会話を前提に設計されています。
メモリ比例とホスト一律 - 同じ APM で月額が倍になる算術
両者のいちばん深い構造差は、主力 SKU の数え方にあります。Dynatrace の Full-Stack Monitoring は memory-GiB-hour、つまり監視対象ホストのメモリ 1 GiB を 1 時間監視すると 1 単位という数え方で、単価は 0.01 ドルです (2026 年 8 月時点・List Price)。公式 FAQ の例示では、16 GiB のホストを 3 時間監視すると 48 GiB hours を消費します。1 か月を 730 時間 (365 日 × 24 時間 ÷ 12 か月) と置いて計算すると、8 GiB のホストは 0.01 ドル × 8 × 730 = 月 58.40 ドルとなり、料金ページの月額表示 58 ドルとほぼ一致します。同じ式で 16 GiB なら月 116.80 ドル、64 GiB のデータベースホストなら月 467.20 ドル。台数が 1 台も増えなくても、メモリを積むほど請求が比例して伸びる構造です。Datadog の APM はホスト一律で、インフラ監視との併用時にホストあたり月 31 ドル (年契約・2026 年 8 月時点)。インフラ監視 Pro の 15 ドルと合わせて月 46 ドルで、メモリが 8 GiB でも 64 GiB でも変わりません。ただしこの比較を成立させるには、同梱範囲まで並べる必要があります。Full-Stack には自動の根本原因分析・コードレベルのプロファイリング・Kubernetes Platform Monitoring・トレース 10 日保持までが 1 つの SKU に含まれます (料金ページ明記)。Datadog 側で継続プロファイラまで揃えるなら、対応する構成は APM Enterprise のホストあたり月 40 ドルとインフラ監視 15 ドルの計 55 ドルです。つまり 8 GiB 級の小ぶりなホストが並ぶ環境では両者は月 55〜58 ドル前後で拮抗し、大メモリのホストが主力になった瞬間に Dynatrace 側だけが伸びていく。自分の環境のホストの平均メモリ量こそ、この 2 社の比較で最初に確かめるべき数字です。
並べて比べられる費目 - 公開単価の対応表
数える単位の考え方が揃っている費目に限れば、公開単価を直接並べられます。Datadog は年契約 (US リージョン)、Dynatrace は割引前の List Price です。
| 費目 | Datadog | Dynatrace |
|---|---|---|
| インフラ監視 | ホストあたり月 15 ドル (Pro) | 1 時間 0.04 ドル・ホストサイズ不問 (料金ページの月額表示は 29 ドル) |
| データベース監視 | DB ホストあたり月 70 ドル | DB インスタンス 1 時間 0.11 ドル (730 時間換算で約 80 ドル) |
| HTTP 外形監視 | テスト実行 1 万回で 5 ドル (1,000 回あたり 0.50 ドル) | リクエスト 1,000 件で 1 ドル |
| 無料の入口 | Free プラン (ホスト 5 台・メトリクス保持 1 日) | 15 日間の無料トライアル |
| 契約量の超過分 | オンデマンド単価に切り替わる (インフラ Pro で 2 割・ログ 30 日インデックスで 5 割の割増) | 同一単価のまま (割増なし) |
インフラ監視と HTTP 外形は公開単価で Datadog が下回り、特にインフラはホストあたりで半額近い差です。ホスト中心の構成で見積もるなら、定価ベースの出発点は Datadog のほうが低くなります。一方で表の最終行は Dynatrace の思想がもっともよく出た行で、使用量が読めない環境に付きまとう「超過したら割高」という不安が構造的に存在しません。Datadog 側でこの不安に対処するには、年契約に載せる量を実測に基づいて慎重に決める運用が必要です。なお繰り返しますが、Dynatrace の実際の支払単価は非公開のコミット割引の適用後に決まるため、この表はあくまで交渉前の定価の比較です。
比べられない費目 - 単位系が違うものは換算しない
比較記事への期待を裏切るようですが、残る主要な費目の多くは、誠実にやろうとすると 1 枚の価格対応表に載せられません。数える単位そのものが違うからです。
| 費目 | Datadog の数え方 | Dynatrace の数え方 |
|---|---|---|
| ログ | 取り込み 1 GB あたり 0.10 ドルと、インデックス 100 万イベントあたり 2.50 ドル (Standard Indexing・30 日保持) の 2 段構え。30 日を超える保持は Flex Storage が受け持ち、保存 100 万イベントあたり月 0.05 ドルの公開単価で最長 15 か月。それより長い公開オプションはない | 取り込み 1 GiB あたり 0.20 ドル + 保持 1 GiB・1 日あたり 0.0007 ドル + クエリ 1 GiB スキャンあたり 0.0035 ドルの 3 部制 (クエリ込みで保持 1 GiB・1 日 0.02 ドルの束ね型も選択可)。公開単価のまま最長 10 年保持 |
| カスタムメトリクス | 系列の個数で数える (100 個あたり月 5 ドル) | データポイント数で数える (10 万ポイントあたり 0.15 ドル) |
| ブラウザ外形監視 | テスト実行回数 (1,000 回で 12 ドル・25 ステップごとに 1 実行と換算) | 操作 (アクション) 単位 (1,000 アクションで 4.50 ドル) |
| Kubernetes | ホストごとのコンテナ割当 + 超過はコンテナあたり月 1 ドル | Pod 1 時間あたり 0.002 ドル (Full-Stack 稼働ホスト上は追加課金なし) |
ログが代表例です。Datadog はイベントの件数で、Dynatrace は容量で数えます。1 件のログが何バイトかはアプリケーション次第なので、換算係数を仮置きした瞬間に、比較全体がその仮定の産物になります。Datadog 自身の課金 FAQ も件数と GB の公式換算式を持たず、実測に基づく見積もりを案内しているほどです (詳しくはログ管理の解説を参照)。カスタムメトリクスも同じで、系列数課金の Datadog は送信頻度を上げても金額が増えませんが、データポイント課金の Dynatrace は送信間隔を半分にすると金額が倍になります。どちらが安いかは、ログの平均サイズとメトリクスの送信間隔という、ベンダーの表には載っていないあなたの環境の数字で決まります。この領域で断定的な総額比較を掲げるページを見かけたら、まずその換算の仮定を確かめてください。
選定の分かれ目 - 条件から答えを引く
ここまでの構造差を、選定に使える条件の形に畳み込みます。
| あなたの環境・要件 | 向くのは |
|---|---|
| 無料のまま実環境に入れて、実測してから決めたい | Datadog - Free プランはホスト 5 台まで使える。Dynatrace の無料は 15 日間のトライアル |
| ホストは小〜中メモリで台数が多い | Datadog - ホスト一律課金はメモリ増設の影響を受けない |
| 交渉なしで見積もりを確定させたい | Datadog - 年契約・月契約・オンデマンドの 3 価格をすべて公開 |
| LLM 監視やオンコール、サーバーレスまで 1 つの請求にまとめたい | Datadog - 公開 SKU の守備範囲が広い (On-Call は 1 人あたり月 20 ドルの公開価格)。Dynatrace のレートカードに LLM やオンコールの専用 SKU の記載なし |
| 使用量の変動が大きく、超過割増を構造的に無くしたい | Dynatrace - コミット超過後も同一単価 |
| APM もインフラも Kubernetes もプロファイラも 1 つの SKU にまとめたい | Dynatrace - Full-Stack 1 本に同梱。Datadog は APM Enterprise 月 40 ドルとインフラ監視 15 ドルの積み上げ |
| ログやトレースを年単位で保持したい | Dynatrace - 公開単価のまま最長 10 年。Datadog はログが Flex Storage で最長 15 か月、トレースの公開プランは 30 日まで |
最後に当サイトの見立てを書きます。超過割増のない単一単価、シート課金なし、公開単価での 10 年保持。これらは Dynatrace が構造で勝っている点で、ここを重く見る組織が Dynatrace を選ぶのは合理的です。それでも多くのチームにとって出発点は Datadog になると考えます。理由は単純で、意思決定に必要な数字が最初から全部見えているからです。ホスト 5 台の Free プランで自分の環境の送信量を実測し、公開されている 3 価格で総額を机上計算し、様子を見たければ月間契約のまま運用を続けられる。監視ツールの見積もりで最大の敵は「使ってみないと分からない」という不確実性であり、それを無料の入口と公開単価で潰せる構造は、コミット額の交渉から始まる構造よりも、小さく始める組織の味方です。土俵を広げて検討するなら CloudWatch との使い分けと New Relic との比較が、Datadog 側の費目の精読には料金体系の読み解き方が続きの読み物です。本記事の価格は各時点の実例であり、執筆後の価格改定を反映するものではありません。答え合わせに使う数字は、両社の公式料金ページとあなたの環境の実測値、その 2 つで足ります。