ネットワーク監視
サーバーの内側ではなく「サーバー同士の間」で起きている故障を見つけるための機能群です。クラウド側の通信フローを追う CNM と、ルーターやスイッチを SNMP で見張る NDM の 2 本柱で、ホスト監視の死角を埋めます。
何ができるか
Datadog Agent がホスト上で拾った接続情報 (IP / ポート / プロセス) を、サービスやコンテナといったタグ単位の依存関係に集約し、通信量やリトランスミット、DNS 応答、経路のホップ遅延として可視化します (CNM)。あわせて、オンプレミスや仮想環境のルーター / スイッチ / ファイアウォールを SNMP や NetFlow で監視し、帯域使用率や機器の生死を集めます (NDM)。
どのような場面で使うか
「アプリのエラー率が上がったが、CPU もメモリも正常」という場面で、どのサービス間の通信でリトランスミットや DNS エラーが増えたかを特定する使い方が中心です。リージョンをまたぐ通信量を見て転送コストの原因を探す、オンプレのスイッチのインターフェースが飽和していないかをクラウド側の監視と同じ画面で見る、といった用途にも使われます。
身近な例え
道路の混雑と信号機の故障を映す交通管制センターです。各建物 (ホスト) の中に置いた監視カメラがどれだけ精細でも、建物の間の道路で渋滞や通行止めが起きていれば荷物は届きません。ネットワーク監視はこの「道路側」のカメラで、どの区間でどれだけ詰まっているかを地図の上に色で示します。
ホストの CPU が正常でも通信は落ちている - ネットワーク監視が埋める死角
障害調査でよくある行き詰まりは、アプリのエラー率が上がっているのに、どのホストの CPU もメモリもディスクも平常値というものです。原因が「ホストの中」ではなく「ホスト同士の間」にあるとき、インフラ監視の標準メトリクスは何も異常を示しません。Datadog のネットワーク監視はこの死角を埋める機能群で、大きく 2 本の柱に分かれます。1 本目は Cloud Network Monitoring (CNM) で、Agent を入れたホスト上の接続情報を IP / ポート / プロセスの単位で集め、サービスやコンテナ、アベイラビリティゾーンといった任意のタグ単位の依存関係に集約して見せます。2 本目は Network Device Monitoring (NDM) で、Agent が動かないルーター / スイッチ / ファイアウォールを SNMP などの機器向けプロトコルで監視します (2026 年 9 月時点・出典: Cloud Network Monitoring、Network Device Monitoring)。公式ドキュメントが CNM の用途として挙げるのは、想定外の (または遅い) サービス依存の発見、リージョン間やマルチクラウド間の高コストな通信の最適化、クラウド事業者のリージョン障害や外部サービス障害の特定、クライアント側とサーバー側の DNS 問題の切り分けの 4 点です。どれも「アプリのログには出ず、ホストのグラフにも出ない」種類の故障で、これが無いと調査は当て推量の再起動に流れがちです。
CNM が見るのはサービス間のフロー、DNS、経路の 3 つ
CNM の守備範囲は 3 層で捉えると整理しやすくなります。第 1 層はフロー (接続) で、どのクライアントがどのサーバーへどれだけ送受信し、TCP のリトランスミットや遅延、ジッターがどう推移しているかをタグで絞って追えます。収集は Linux では eBPF、Windows ではネットワークカーネルドライバーが担い、Agent v6.14 以上で system-probe.yaml の network_config を有効にすると始まります (2026 年 9 月時点・出典: CNM Setup)。第 2 層は DNS で、Agent 7.33 以上と CNM の有効化を前提に、どの Pod やサービスがどの DNS サーバーへ問い合わせているか、応答時間の急上昇やエラー種別ごとの発生率を見られます (出典: DNS Monitoring)。
- フロー: どのサービス間で通信量 / リトランスミット / 遅延が変わったか (eBPF またはカーネルドライバーで収集)
- DNS: 誰がどの DNS サーバーに聞き、どこで応答が遅れエラーになっているか (ポート 53 に自動スコープ)
- 経路: 送信元から宛先までのホップごとの遅延はどこで跳ねたか (ホスト上の traceroute)
第 3 層は経路で、Network Path がホスト上で traceroute を実行して送信元から宛先までのホップごとの遅延を描きます。監視対象は Agent 設定に書く固定の送信元と宛先の組 (スケジュールテスト) と、CNM が観測した実トラフィックから自動生成する組 (ダイナミックテスト) の両方が選べ、問題が自社内か ISP 側かを見分ける材料になります (出典: Network Path)。
NDM は SNMP でルーターやスイッチの中身を見る
Agent をインストールできない機器の監視を担うのが NDM です。対象はオンプレミスと仮想環境のルーター / スイッチ / ファイアウォールで、ネットワーク上の機器を自動検出し、帯域使用率や送信バイト量、機器やインターフェースの生死を SNMP で集めます。機器ごとの取り方はプロファイルという定義ファイルで決まり、ベンダー別のプロファイルが用意されている機器はダッシュボードまで揃った状態で始められ、一覧に無い機器でも汎用プロファイルが TCP / UDP / IP とインターフェースの基本メトリクスを拾います (2026 年 9 月時点・出典: NDM Supported Devices)。集め方は SNMP のポーリングだけではありません。機器側から Agent へ送る SNMP トラップ (出典: SNMP Traps)、そして NetFlow / jFlow / sFlow / IPFIX のフロー情報を受け取る NetFlow Monitoring があり、後者は Agent 7.45 以上で flow_type に netflow5 / netflow9 / ipfix / sflow5 を指定して受信ポートを開けます (出典: NetFlow Monitoring)。フローが取れると「どの機器のどのインターフェースが帯域を食っているか」「通信の上位はどこか」が機器単位で見え、CNM が見るホスト間の流れと、機器が見る経路上の流れを同じ Datadog の画面で突き合わせられます。オンプレのコアスイッチとクラウド上のサービスが同じタグ体系で並ぶことが、混在環境で NDM を選ぶ実利です。
ネットワークマップはホストマップと何が違うか
CNM の画面で最初に開くことになるのがネットワークマップです。ホストマップが「1 台 1 台の状態」を六角形の色で並べる画面であるのに対し、ネットワークマップは「誰と誰がどれだけ話しているか」を矢印つきの図で描く、方向のある地図です。ノードに使うタグ (service や availability-zone など) を先頭のセレクターで選び、辺 (エッジ) に載せるメトリクスを送信スループット / 受信スループット / TCP リトランスミット / TCP 遅延 / TCP ジッター / 確立済み接続数 / 切断接続数の 7 種から選びます。ノードが多すぎるときは 2 つ目のタグで自動的にまとめられ、環境や namespace で絞り込み、指定したパーセンタイル範囲の外側のトラフィックを隠す操作もできます。Agent で CNM を有効にしていれば追加の設定は不要で、集まったデータから自動で描かれます (2026 年 9 月時点・出典: Network Map)。読み方のコツは、平常時の形を一度覚えておくことです。障害時に「本来無いはずの太い矢印」や「リトランスミットで赤くなった辺」を探す作業は、平常時との差分探しに他なりません。タグの設計が揃っていないと、ノードが「unknown」や IP アドレスの羅列になって地図の意味が薄れるため、CNM を入れる前に service タグと env タグを全ホストで揃えておく順序が効きます。
課金はホスト単位 (CNM) と機器単位 (NDM) に分かれる
ネットワーク監視の費用は、対象が「Agent を入れたホスト」か「SNMP で見る機器」かで数え方が変わります。CNM は 1 ホストあたり月額のホスト単位の SKU で、年契約とオンデマンドで単価が異なります (2026 年 8 月時点の SKU 区分・出典: Datadog Pricing)。インフラ監視のホスト課金に上乗せされる形なので、CNM を足したホストは「インフラ監視のホスト単価 + CNM のホスト単価」が月の基本料金になる、と見積もります。一方 NDM は機器単位 (per device) の別 SKU で、ルーターやスイッチ 1 台ごとに数え、ホスト課金には含まれません。Network Path についても、Synthetic Monitoring 側から実行するテストはテスト回数単位の別 SKU が用意されています。具体的な単価はいずれも Datadog 公式の料金ページで確認してください。
| 機能 | 数える単位 | 課金の形 | 見積もりのコツ |
|---|---|---|---|
| Cloud Network Monitoring | Agent を入れたホスト | ホスト単位の SKU。インフラ監視のホスト課金に上乗せ (年契約 / オンデマンド) | 全ホストではなく通信の要所 (API ゲートウェイ / DB 前段) から |
| Network Device Monitoring | SNMP で監視する機器 | 機器単位の別 SKU (ホスト課金に含まれない) | コアスイッチ / 境界ファイアウォールなど台数の少ない要所から |
| Network Path Testing (Synthetics 側) | テスト実行回数 | 回数単位の別 SKU | 実行間隔 × 経路数の掛け算で月間回数を先に出す |
見積もりの実務では「CNM は全ホストに入れない」が第一の守りです。ホストの中で起きる故障はインフラ監視で足りるので、CNM は通信の要所、たとえば API ゲートウェイ、DB の前段、リージョン間通信を担うホストに絞って始め、効果が見えた範囲だけ広げます。料金体系全体の読み方は料金の読み解きで扱っています。
切り分けはアプリ、ホスト、ネットワークの順に疑う
ネットワーク監視を入れると、何でもネットワークのせいにしたくなる時期が来ます。しかし実務の切り分けの順序は、アプリ (APM のトレースでどのサービスのどの処理が遅いか)、ホスト (インフラ監視で CPU や I/O が飽和していないか)、ネットワーク (CNM でその区間のリトランスミットや DNS が乱れていないか) の順が効率的です。理由は単純で、発生頻度と修正の速さが違います。アプリのバグやホストのリソース不足は自分たちで直せる一方、ネットワーク側の問題は経路や機器、ときには ISP の手に渡るため、確証が無いまま「ネットワークが怪しい」と言うと調査が止まります。CNM の価値はこの順序の最後で「ネットワークではない」と数字で否定できることにもあり、否定できれば残る容疑者はアプリかホストに絞られます。オンプレのデータセンターとクラウドが専用線や VPN でつながる混在環境を例に取ります。ここでは「クラウド側は CNM でホスト間を、オンプレ側は NDM でスイッチや境界ファイアウォールを、その間の経路は Network Path で」と担当を分けると、どの区間で遅延が乗ったかを 1 つの画面で追えます。
- 1. APM のトレース: 遅いのはどのサービスのどの処理か (アプリ側の容疑を先に確認)
- 2. インフラ監視: そのホストの CPU / メモリ / ディスク I/O は飽和していないか
- 3. CNM のフロー: その 2 者間の通信でリトランスミット / 遅延 / DNS エラーが増えていないか
- 4. Network Path: 増えているなら経路のどのホップで遅延が乗ったか (自社内か ISP か)
- 5. NDM: そのホップに当たる機器のインターフェースは飽和 / エラーしていないか
有効化の前に確かめる 5 項目
CNM も NDM も、有効にしてから困る点はおおむね決まっています。対応環境、権限、タグ、機器側設定、課金範囲の 5 項目を先に埋めておくと、後戻りがほぼ無くなります。
- 1. 対応環境: CNM の Linux はカーネル 4.4.0 以上か eBPF のバックポートが前提で、対応ディストリビューションとして Ubuntu 16.04 以上、Debian 9 以上、CentOS/RHEL 7.6 以上、Amazon Linux 2 などが列挙されている。Windows は Agent 7.27.1 以上と Windows 2012 R2 以上 (同等のデスクトップ OS を含む) が条件、macOS は非対応、Windows はホストのみで Windows コンテナは対象外
- 2. 権限: SELinux が有効なシステムでは system-probe が eBPF を使うための追加ポリシーが必要
- 3. タグ: 前述のとおり service と env が揃っていないと地図が読めない
- 4. NDM の機器側設定: SNMP のコミュニティ名や認証情報、トラップや NetFlow を送る宛先ポートを機器側に入れる作業はネットワーク担当者との共同作業になる
- 5. 課金の対象範囲: CNM を有効にするホストの一覧を先に決め、月額の増分を出してから設定を配る
これらが埋まっていれば、有効化そのものは system-probe.yaml の 1 行で済みます。
network_config:
enabled: true設定後は Agent の status 出力で system-probe が動いているかを見てから、ネットワークマップに自分のホストが現れるまで数分待つ、という順序で確認します。異常を通知に変える段階では、リトランスミット率や DNS エラー率を モニターで見張るのが定番で、公式ドキュメントにも CNM 専用のモニター種別の解説があります (2026 年 9 月時点・出典: Cloud Networking Monitor)。
注意点
- 本記事は 2026 年 9 月時点の公式ドキュメントの記載に基づいています。対応 OS やカーネル要件、設定キー名は Agent のバージョンで変わり得るため、導入時は公式ドキュメントの Setup ページの記載を優先してください。
- 本記事は課金の仕組みを解説するものです。具体的な単価や料金は Datadog 公式の料金ページで確認してください。