Incident Management
障害を「宣言」してから解決し、振り返りを書くまでの記録と役割を 1 つの画面に残す機能です。状態、重大度、指揮者、タイムライン、Slack 連携を扱い、料金は記録を書き換える人数分のシートで決まります。
何ができるか
障害をインシデントとして宣言し、題名と重大度と指揮者 (Incident Commander) を付けて、状態を Active から Stable、Resolved へ進めながら、コメントやグラフ、リンクをタイムラインに積み上げます。Slack のチャンネルと同期し、解決後はテンプレートからポストモーテムを生成して、対応時間などの統計を後から集計できます。
どのような場面で使うか
障害のたびに Slack が流れて「誰が何を決めたか」が翌日には辿れない状態を終わらせたいときに使います。モニターが鳴った瞬間に宣言して記録を始める、重大度で誰を呼ぶかを決める、解決後に振り返りの文書を同じ記録から起こす、月に何件の障害を何分で閉じたかを数える、といった運用です。
身近な例え
災害対策本部のホワイトボードです。発生時刻、被害の範囲、本部長、各班の担当と報告を 1 枚に時刻つきで書き足していき、部屋にいない人にも同じ板の写しが届きます。事態が収まったら板の内容をそのまま検証報告書の下書きにします。板が無いと、対応は各人の記憶と個別の電話の中に散らばります。
結論 - 宣言から振り返りまでを 1 つの画面に残し、人数で払う
イベントやアラートは「システムに何が起きたか」の記録で、インシデントは「人がどう対応したか」の記録です。Datadog Incident Management は後者を担い、障害を宣言した時刻から、誰が指揮し、何を決め、いつ収まり、何を学んだかまでを 1 つの画面に残します。導入にインストールは要らず、インシデントを宣言した時点から使えます (2026 年 9 月時点・出典: Incident Management)。モニターやダッシュボードと同じ場所にあるため、対応中に見たグラフをそのまま記録に貼れ、後から「あの時どのグラフを見て判断したか」を再現できます。料金は監視対象の台数ではなく、記録を書き換える人の数、つまりシート数で決まります。以下では、状態の進み方、宣言時に埋める項目、宣言の入口、記録の集まり方、On-Call との分業、シートの数え方、振り返りの回し方の順にたどります。
状態は 3 段で進む: Active / Stable / Resolved
インシデントの状態は既定で 3 つあり、意味が公式ドキュメントで定義されています。Active は他者に影響が出ている状態、Stable は影響は止まったが調査が終わっていない状態、Resolved は影響が止まり調査も完了した状態です。設定で Completed という状態を足すこともでき、各状態の説明文はカスタマイズできます (2026 年 9 月時点・出典: Describe an Incident)。Active と Stable を分けているのが要点です。「もう影響は出ていないが原因は分かっていない」という中間の状態を名前で持てるので、経営層への報告は Stable で一度落ち着かせ、技術側は Resolved に向けて調査を続ける、という切り分けが記録の上で成立します。
宣言のときに埋めるのは題名と重大度と指揮者
宣言のモーダルにある中心の項目は 3 つです。題名 (必須)、重大度 (必須)、そして対応を率いる Incident Commander です。重大度は既定で SEV-1 (最も重い) から SEV-5 (最も軽い) の 5 段階で、段階の数と説明は設定で変えられます。宣言の項目は設定で増やせ、状態や影響、根本原因、検知方法、影響を受けたサービスなどを後から更新できます。対応チームの編成には独自の対応者ロールを定義して使えます (2026 年 9 月時点・出典: Declare an Incident と Incident Management)。重大度の説明文は組織が決めるものなので、ここでは決め方の骨格だけを示します。
| 決める観点 | 問い | 説明文に書く例 |
|---|---|---|
| 影響の範囲 | 全利用者か、一部の機能か、社内だけか | SEV-1 = 主要な導線が全利用者で止まっている |
| 影響の継続 | 今も続いているか、回避策があるか | SEV-3 = 回避策があり、利用者は目的を達成できる |
| 呼ぶ人 | その重大度で誰まで呼ぶか | SEV-1 と SEV-2 は On-Call でチームを呼ぶ |
重大度で迷ったときの規則を 1 つだけ決めておくと宣言が速くなります。「迷ったら 1 段重くして宣言し、Stable にする時点で下げる」のように、後から下げられることを前提にした規則です。
どこから宣言できるか
宣言の入口は 1 つではありません。公式ドキュメントは、インシデント一覧の画面、モニター、セキュリティシグナル、漏えいしたシークレット、作業項目、グラフ、Synthetic テスト、Datadog クリップボード、On-Call のページ、Slack、Google Chat、引き継ぎ通知からの宣言を載せています (2026 年 9 月時点・出典: Declare an Incident)。実務で使う頻度が高いのはモニターと Slack の 2 つです。
| 入口 | 挙動 |
|---|---|
| モニター (手動) | モニター画面の「Declare incident」で宣言し、そのモニターがシグナルとしてインシデントに付く。既存のインシデントへ追加もできる |
| モニター (自動) | モニターの通知設定で「Add Incident」を選ぶと、warn / alert / no data への遷移時に自動で宣言される。項目の値はモニターのタグから引き継ぐ |
| Slack | Datadog の Slack 連携が有効なら、任意のチャンネルで /datadog incident を打って宣言。Slack と Datadog を接続している宣言者が既定の Incident Commander になり、専用のインシデントチャンネルが作られる |
| グラフ / Synthetic テスト / On-Call のページ | 見ていた画面からそのまま宣言し、見ていたものが記録に付く |
入口が多い理由は、宣言の遅れが記録の欠けにそのまま繋がるからです。「後で正式に登録する」運用では最初の 30 分の判断が残りません。モニターからの自動宣言は、その 30 分を機械に埋めさせる手段です。ただし自動宣言を全モニターに付けると記録がノイズで埋まるので、重大度 high に値するモニターに限るのが順当です。
タイムラインと Slack が記録を 1 か所に集める
記録の本体はタイムラインです。コメント、グラフ、リンクを時刻つきで積み上げ、状態や重大度の変更もここに残ります。Slack から宣言するとインシデント専用のチャンネルが作られ、そのチャンネルでの発言はタイムラインに同期されます。関係者への通知は設定でき、対応の経過を利害関係者へ知らせ続けられます (2026 年 9 月時点・出典: Incident Management と Declare an Incident)。
| 連携先 | インシデントとの関係 |
|---|---|
| Status Pages | 公開または非公開のステータスページを作り、インシデントに接続する |
| On-Call | ページをインシデントへ昇格させる。インシデントから手動または自動でチームを呼ぶ |
| Notebooks | ポストモーテムの下書きと確認 |
| Workflow Automation | インシデントに関わる自動処理を組んで実行する |
| Incident Analytics | 解決までの時間や利用者への影響を過去のインシデントから集計し、ダッシュボードのグラフウィジェットで追う |
ここで重要なのは、Slack を捨てなくて良いことです。対応の会話は Slack のまま、記録の正はインシデントのタイムラインに置く。この二層にすると、翌日に「誰が何を決めたか」を辿るために Slack を上下にスクロールする作業が消えます。
On-Call が呼び、Incident Management が記録して閉じる
On-Call と Incident Management は同じ Incident Response の枝にあり、役割で分かれます。On-Call は「今、当番の誰を呼ぶか」を決めて呼び出しを届ける機能で、Incident Management は「呼ばれた後に何が起き、どう閉じたか」を残す機能です。接点は双方向にあり、On-Call のページをインシデントへ昇格させることも、インシデントの中からチームを手動または自動で呼ぶこともできます (2026 年 9 月時点・出典: Incident Management)。
- モニターが鳴る → On-Call がページを当番に届ける (呼ぶ)
- 当番がページを確認し、影響があると判断 → ページをインシデントへ昇格 (宣言)。状態は Active (影響が続いている)
- Incident Management が状態、重大度、指揮者、タイムラインを記録 → 必要なら別チームを On-Call で呼ぶ
- 影響が止まる (回避策や切り戻しが効いた) が調査は残る → Stable
- 調査も完了 → Resolved。設定で足した Completed (任意) を、振り返りまで終えた区切りに使うこともできる
- Post-Incident タブからポストモーテムを生成 (振り返り)
どちらか片方だけでも成立します。呼び出しは既存のツールで回っていて記録だけが欠けている組織は Incident Management から、逆に記録は Slack とスプレッドシートで足りているが夜間の呼び出しが人手の組織は On-Call から入るのが自然です。両方を使うなら次の節の一括 SKU が関わります。
料金はシート - 記録を書き換える人だけを数える
シートが必要になる操作と要らない操作は、公式ドキュメントが列挙しています。この区別は Datadog の画面でも Slack や Microsoft Teams の連携経由でも同じです (2026 年 9 月時点・出典: Incident Response Billing)。
- シートが要る: インシデントの変更 (重大度の更新など) / 削除 / タイムラインへのコメント、グラフ、リンクの追加 / タスクの割り当て (割り当てられる側は不要) / 対応者を独自ロールへ割り当て (割り当てられる側も必要)
- シートが要らない: インシデントの作成 / 閲覧 / チャンネルへの参加 / Slack でのコメント (タイムラインに同期される発言を含む)
| SKU | 課金単位 | 契約形態 | 同梱と注意点 |
|---|---|---|---|
| Incident Management 単独 | シート / 月 | 年契約 / 月契約 / オンデマンド | インシデント管理のみ |
| On-Call 単独 | シート / 月 | 同上 | オンコールのみ |
| Incident Response 一括 | シート / 月 | 同上 | 両方を同梱。同じ人が両方を使う場合、単独 2 つの合計より低い単価に設定されている |
読み方は 1 行で済みます。同じ人が呼び出しも受け、記録も書き換えるなら、両方を同梱する一括 SKU のほうが単独 2 つを足すより低く、片方しか行わない人にはその単独 SKU を当てます。料金全体の中での位置づけは料金体系の読み解きを参照してください。本記事は課金の仕組みを解説するものです。具体的な単価や料金は Datadog 公式の料金ページで確認してください。
振り返りを回すための最小ルール
ポストモーテムは、何が起き、なぜ起き、再発を防ぐために何をするかを構造化した文書です。Resolved の後に Post-Incident タブでテンプレートを選んで生成すると、インシデントのデータが流し込まれ、Notebooks や Confluence など設定した先に文書ができてインシデントに紐づきます (2026 年 9 月時点・出典: Postmortems)。生成は 1 操作ですが、振り返りが回るかどうかは前後の規則で決まります。
- 宣言時: 題名と重大度と指揮者を空にしない。空のまま Resolved にした記録は振り返りの材料にならない
- 対応中: 判断を変えた瞬間 (切り戻し、影響範囲の見直し) はタイムラインに 1 行残す。Slack の会話だけに残さない
- Resolved 後: 期限 (例: 3 営業日) を決めてポストモーテムを生成し、再発防止の作業は担当者を付けたタスクにする
- 月次: Incident Analytics で件数と解決までの時間を見て、重大度の説明文が実態と合っているか見直す
最も効くのは 2 つ目です。ポストモーテムの品質は文章力ではなく、対応中に残した判断の行数で決まります。SLO を運用している組織なら、エラーバジェットを削った障害から順に振り返る優先順位も使えます。Error Tracking が「同じエラーの束」を追うのに対し、Incident Management が追うのは「1 回の障害への人の対応」です。原因の側は Error Tracking、判断の側はインシデントのタイムライン、と読み分けてください。
注意点
- 本記事は 2026 年 9 月時点の公式ドキュメントの記載に基づいています。状態名、重大度の段階、宣言の入口、シートが必要になる操作の定義は変わり得るため、設定前に公式ドキュメントの記載を確認してください。
- 本記事は課金の仕組みを解説するものです。具体的な単価や料金は Datadog 公式の料金ページで確認してください。 SKU の構成は 2026 年 8 月時点の公式料金ページに基づきます。
- 重大度 (SEV-1〜SEV-5) の説明文は組織ごとに設定するもので、本記事の例は公式の定義ではありません。