Error Tracking
同じ原因で繰り返すエラーを 1 つの Issue に束ね、件数ではなく「問題の数」で追えるようにする機能です。RUM・APM・ログの 3 つの出所を 1 つの一覧にまとめ、新規と再発だけを通知できます。
何ができるか
エラーの型、メッセージ、スタックトレースなどの属性から指紋 (fingerprint) を計算し、同じ指紋のエラーを 1 つの Issue にまとめます。Issue には初回と最終の発生時刻、発生回数の推移、影響を受けたユーザー数、原因と疑われるコミットが付き、状態 (要確認 / 確認済み / 解決 / 無視 / 除外) を付けて追跡できます。
どのような場面で使うか
「エラーログが 1 日数千件出るが、実際の不具合は何個あるのか分からない」状態を解消するときの装備です。リリース直後に新しく現れた Issue だけを通知する、一度解決した不具合が新しいバージョンで再発 (Regression) したことを検知する、影響セッション数の多い順に修正の優先度を決める、といった使い方をします。
身近な例え
苦情の手紙を 1 通ずつ読むのではなく、同じ件の手紙を束ねて「この件で 300 通、最初は火曜の夜、差出人は 120 人」と数えてくれる受付係です。件数の山が「対処すべき問題のリスト」に変わり、新しい束が届いたときだけ担当者を呼びに来ます。
エラーログを 1 件ずつ読む運用はなぜ破綻するか
エラーは 1 件ずつ見ると、どれも同じくらい緊急に見えます。実際には同じ不具合が利用者の数だけ繰り返し記録されているだけで、対処すべき「問題」の数はずっと少ないはずです。Datadog の Error Tracking はこの差を埋める機能で、数千件の類似エラーを 1 つの Issue にまとめます (2026 年 9 月時点・出典: Error Tracking)。まとめ方は、エラーの型、メッセージ、スタックトレースといった属性から指紋 (fingerprint) を計算し、同じ指紋を持つエラーを同じ Issue に入れる、という規則です (出典: Error Tracking Explorer)。Issue には、影響を受けたユーザーの数、最初に起きた時刻、原因と疑われるコミットが付きます。「今日エラーが 3,000 件」という報告が「未対応の Issue が 4 つ、うち 1 つは今日初めて出た」に変わると優先順位の会話が成立し、検索結果を目で束ねる作業が要らなくなります。
3 つの出所 - RUM / APM / ログで拾える情報の違い
Error Tracking はエラーの出所を 1 つに限定しません。ブラウザーとモバイルの SDK、APM のトレース、ログの 3 系統から取り込み、Explorer の Sources フィルターで All / Browser / Mobile / Backend を切り替えて 1 つの一覧で扱えます (2026 年 9 月時点・出典: Error Tracking Explorer)。出所によって Issue に付く情報が違います。
| 出所 | 取り込みの入口 | Issue に付く情報の例 | 出所固有の機能 |
|---|---|---|---|
| ブラウザー / モバイル (RUM) | Browser SDK / Mobile SDK | 影響を受けたセッション数、利用者の特徴 | 手動で捕捉していないエラーは unhandled と分類 |
| バックエンド (APM) | トレース内のエラースパン | リソース名や操作名などのスパンタグ、関連トレースとログへの直接遷移 | Exception Replay が本番の変数の値を自動で捕捉 |
| ログ | ログのエラーイベント | ログの属性と発生源 | ログソース単位での絞り込み |
フロントエンドの Issue は RUM のセッションと結び付くため「何人に影響したか」が出ます。バックエンドの Issue は APM のトレースと結び付くため「どのリクエストのどの処理で起きたか」に直結し、APM 由来なら Exception Replay が例外発生時の変数の値まで残します (出典: Error Tracking)。ログ管理由来の Issue は、SDK を入れられない既存システムのエラーも束ねられます。
一覧で何が見えるか - New / Regression / Crash の印と並べ替え
Explorer の一覧では、Issue ごとにエラーの型とメッセージ、発生元ファイルのパス、初回と最終の発生時刻、発生回数の推移グラフ、選択期間内の件数が並びます (2026 年 9 月時点・出典: Error Tracking Explorer)。Issue には印が付き、初回発生から 2 日未満で状態が FOR REVIEW のものは New、解決済みだったものが新しいバージョンで再び起きると Regression、アプリがクラッシュしたものは Crash と表示されます。並べ替えは Relevance (古さ、直近の件数と急増、クラッシュの有無を組み合わせた優先度)、Count、Newest、Impacted Sessions の 4 種です。絞り込みはファセットで行い、error.type や error.handling (処理済みか未処理か) で切れます。APM 由来のエラーは、親スパンが成功を返していれば handled と判定されます。
Issue の 5 つの状態と自動遷移
Issue には 5 つの状態があり、全て FOR REVIEW から始まります (2026 年 9 月時点・出典: Issue States in Error Tracking)。
- FOR REVIEW: 新規または再発した Issue。担当を割り当てるか作業項目を作ると自動で REVIEWED へ
- REVIEWED: 対処が決まった Issue。修正して発生が止まると RESOLVED へ (手動または自動)
- RESOLVED: 解決済み。バージョンタグがあれば、より新しいバージョンで 14 日以上再発しないと自動で解決。無ければ 14 日間発生なしで自動解決
- IGNORED: これ以上の調査や対処が不要な Issue
- EXCLUDED: 追跡そのものを止める状態。新しいエラーの収集が止まり、使用量と課金に数えられなくなる
この状態遷移の値打ちは自動化にあります。担当を割り当てた瞬間に REVIEWED になり、直したものは 14 日間静かなら RESOLVED になるので、人が手で閉じる作業がほとんど要りません。解決済みの Issue が新しいバージョンで再び起きると Regression として自動で戻ってくるため、「直したはずのバグ」がリリース判定に上がってきます。この再発検知はサービスに versionタグが付いていることが前提で、タグ付けの規約に version を含めておく意味がここでも出ます。
通知は件数のしきい値ではなく「新しい Issue」で切る
エラー件数にしきい値を置くアラートは、既知の Issue の増減でも鳴ります。Error Tracking には専用のモニター種別があり、新しい Issue が現れたとき、または影響の大きい Issue が出たときに通知できます (2026 年 9 月時点・出典: Error Tracking Explorer)。Explorer で組んだ検索条件はそのままモニターの対象範囲として書き出せるので、「決済サービスの Backend で New の印が付いた Issue」のような条件を、一覧で確認した絞り込みから直接モニターにできます。この設計の効き目は、通知の母数が「件数」から「Issue の出現」に変わる点にあります。1 つの不具合が 1,000 回起きても通知は 1 回で、直したはずの不具合が Regression として戻ってきたときも同じ経路で知らせが来ます。全体の傾向は件数で、対処すべき新事象は Issue で、と役割を分けるのが運用しやすい形です。
料金はどう乗るか
Error Tracking はエラーの出所となる各製品の上で動くため、課金もまず RUM / APM / ログの各製品側の単位で発生します (単位の考え方は料金体系の読み解き方を参照)。Error Tracking 単独の単価は本記事では扱わず、独立した SKU の有無と単価は Datadog Pricing で確認してください。公式ドキュメントには、Issue を EXCLUDED にすると新しいエラーの収集が止まり、使用量と課金に数えられなくなると明記されています (2026 年 9 月時点・出典: Issue States in Error Tracking)。想定内の例外の除外は費用面でも意味を持ちます。また、バックエンドは APM のトレースとは別に、SDK の計装から Error Tracking へエラーを送る Standalone Backend Error Tracking の導線もあります (出典: Backend Error Tracking)。
Sentry と同じことができるのか
エラーを Issue に束ねる、状態を回す、再発を検知するという骨格は Sentry のようなエラー監視専業ツールと重なります。違いは Issue の隣に何があるかで、Datadog では同じ画面からエラースパンのトレース、関連ログ、ホストのメトリクスへ移れる点が設計の中心です。Sentry 側が勝る面を含めた比較と、併用か置き換えかの判断は Datadog と Sentry の比較で扱っているので、本記事では Datadog 内の仕組みに話を絞ります。
ログのエラー検索から Issue の推移へ運用を変える順序
最後に、既にログでエラーを検索している組織が Error Tracking へ運用を移す順序を示します。全部を一度に切り替える必要はありません。
- 1. 出所を 1 つ選んで有効化する。件数が最も多い系統 (多くはログか RUM) から始め、Issue の数が件数の何分の 1 になるかを見る
- 2. FOR REVIEW を毎日ゼロにする日課を置く。担当を割り当てるだけで REVIEWED に移るので、朝の 10 分で回る
- 3. 想定内の失敗は EXCLUDED にする。収集も課金対象からも外れ、一覧が対処すべきものだけになる
- 4.
versionタグを揃え、Regression の印をリリース判定に使う - 5. 件数モニターの隣に「新しい Issue」のモニターを足し、通知を Issue 単位に寄せる
順序の要点は 1 と 3 です。最初に 1 系統だけで「件数 → Issue 数」の縮み方を実測すると、この機能に払う手間の見返りが数字で分かります。3 を先に済ませないと、想定内の例外が FOR REVIEW に居座って日課が形骸化します。ここまで整うと、障害対応の起点が「ログを検索して同じものを目で束ねる」から「Issue の一覧で新しい束と戻ってきた束を見る」に変わり、調査の最初の 10 分が問題の切り分けそのものに使えるようになります。
注意点
- 本記事は 2026 年 9 月時点の公式ドキュメントの記載に基づいています。Issue の状態名、印の条件、自動解決の日数は変わり得るため、迷ったら画面の表示と公式ドキュメントの記載を優先してください。
- Error Tracking の単価は本記事では扱っていません。課金の扱いと独立した SKU の有無は公式料金ページで確認してください。課金の扱いは執筆後に改定され得るため、契約前に料金ページの記載を確認してください。