Datadog と Grafana の比較 - 自前運用と Cloud の損得分岐
「Grafana は無料で使えるのに、なぜ Datadog にお金を払うのか」という問いに、Grafana OSS の自前運用、Grafana Cloud、Datadog の 3 者を同じ土俵に乗せて答えます。系列数課金とホスト単価という課金の仕組みの差から損得を分ける変数を取り出し、Grafana が勝る点と Datadog が活きる条件を分けます。
Grafana OSS、Grafana Cloud、Datadog は同じ土俵にいない
Datadog と Grafana の比較が噛み合わない最大の理由は、「Grafana」が 2 つの別物を指すからです。1 つは自分のサーバーに入れて動かすオープンソースの Grafana で、可視化ツールとして Prometheus などのデータソースの上に載せて使います。もう 1 つは Grafana Labs が運営する SaaS の Grafana Cloud で、メトリクス / ログ / トレースの保存基盤まで含めた従量課金のサービスです。Datadog は後者と同じ SaaS 型ですが、課金の単位がホストと使用量の積み上げである点が違います。
| 選択肢 | 何者か | 費用の型 | 向く組織 |
|---|---|---|---|
| Grafana OSS の自前運用 | AGPLv3 の可視化ツール。収集と保存は Prometheus などを別に立てる | ライセンス費は無し。サーバーと運用人員が費用 | 運用に人を割ける、Prometheus 資産がある |
| Grafana Cloud | Grafana Labs の SaaS。保存基盤込み | 無料枠付き。有料プランは月額の基本料 + 従量 (系列数 / GB / 利用者数) | Grafana の使い勝手を SaaS で、量が読める |
| Datadog | 収集 Agent から可視化 / アラートまで 1 製品の SaaS | ホスト単位の月額 (契約形態で単価が変わる場合がある) + 製品ごとの SKU | 横断調査が多い、監視対象が増え続ける |
Grafana Labs は 2021 年 4 月 20 日に Grafana / Loki / Tempo のライセンスを Apache License 2.0 から AGPLv3 へ移すと発表しており、自前運用でも利用そのものは無料です (出典: 前掲 Licensing)。つまり比較は「無料 vs 有料」ではなく、「人手で払うか、従量で払うか、ホスト単価で払うか」の 3 択です。この 3 択を、両社の公式ドキュメントに書かれた課金の仕組みと機能の事実だけで並べます。本記事は課金の仕組みを解説するものです。具体的な単価や料金は各社の公式の料金ページで確認してください。
課金モデルの差 - 系列数と GB の従量か、ホスト単価の積み上げか
Grafana Cloud の料金は、無料の Free、月額の基本料に一定量の系列 / ログ / 利用者を含み超えた分が従量になる Pro、年間コミットで契約する Enterprise の 3 段です。Pro の従量は、メトリクスがアクティブ系列数、ログが取り込み GB、利用者がアクティブユーザー数という 3 つの単位で数えられ、いずれも量が増えると単価が段階的に下がる帯構造をとります。保持はメトリクス 13 か月、ログ / トレース 30 日です (2026 年 9 月時点・出典: Grafana Pricing)。Datadog はインフラ監視 Pro がホスト単位の月額で、この中にホストあたりのカスタムメトリクス割当と 15 か月のメトリクス保持が含まれ、ログは取り込み GB あたりの単価に、インデックスしたイベント数あたりの単価 (保持日数で変わる) が加わる 2 段構えです (出典: Datadog Pricing)。ホスト単価は契約形態 (年契約か月契約か) で変わる場合があります。
| 費目 | Grafana Cloud Pro | Datadog |
|---|---|---|
| 基本料 | 月額の基本料あり (一定量の系列 / ログ / ユーザーを含む) | 無し (ホスト単価に含む) |
| メトリクスの単位 | アクティブ系列数 (帯が上がるほど単価が下がる) | ホスト数 (契約形態で単価が変わる場合がある)。ホストあたりのカスタムメトリクス割当込み |
| メトリクス保持 | 13 か月 | 15 か月 |
| ログ | 取り込み GB あたりの従量 / 保持 30 日 | 取り込み GB あたり + インデックスしたイベント数あたり (保持日数で単価が変わる) |
| 利用者数 | アクティブユーザー数あたりの従量 | ユーザー数課金なし |
| 無料枠 | あり (系列 / ログ / ユーザー数に上限、保持 14 日) | あり (ホスト台数に上限、メトリクス保持 1 日) |
表で一番大事なのは「メトリクスの単位」の行です。Grafana Cloud はカーディナリティ (系列の数) に比例し、ホストが何台あるかは問いません。Datadog はホスト数に比例し、系列の数は割当の範囲なら問いません。同じ環境でもどちらが安いかは「1 ホストあたり何系列出しているか」で決まる、というのがこの表の結論です。料金の積み上げ構造そのものは料金の読み解きで扱っています。
自前運用の見えないコスト - Prometheus + Grafana を回し続ける人手
「Grafana は無料」が成り立つのは、可視化の裏で動く Prometheus と、その運用を担う人がいるときだけです。Prometheus の公式ドキュメントは、その設計を「分散ストレージに依存せず、単一のサーバーノードが自律的に動く」「時系列の収集は HTTP 経由の pull 型で行う」と説明し、障害時にこそ頼れる信頼性を優先した反面、「リクエスト単位の課金のように 100% の正確さが必要な用途には向かない」と明記しています (2026 年 9 月時点・出典: Prometheus Overview)。単一サーバーで自律するという設計は、裏返すと「長期保持と高可用性は自分で設計する」という意味です。ここに人手がかかります。
- 保持の設計 - ローカルディスクの容量計画と、長期保持したいなら別の保存層の追加
- 可用性の設計 - 監視サーバー自身が落ちたとき誰が気づくか。2 台構成にすれば設定の同期が仕事になる
- 収集対象の追随 - pull 型なのでスクレイプ対象の登録が増減のたびに必要 (サービスディスカバリの整備)
- アップグレードとセキュリティ - Prometheus / Grafana / exporter 群の版管理と脆弱性対応
- アラートの配管 - Alertmanager の設定と通知先の保守
これらは月に何時間かかるかを事前に言い切れない種類の仕事で、しかも担当者が 1 人だと退職や異動で監視基盤ごと属人化します。Grafana Cloud が「基本料 + 従量」で売っているのは、まさにこの 5 項目を肩代わりする対価です。Datadog も同じで、ホスト単価の中に保持 15 か月と可用性が含まれています。したがって自前運用の見積もりは「サーバー代」ではなく「監視基盤の担当者の月何時間 × 時間単価」で置くのが正しく、その数字が両社の SaaS 料金を上回るなら自前運用は割高、下回るなら割安です。監視の担当者を専任で置けない数十台規模ほど、この逆転は起きやすい構造です。
Grafana が勝るのは無料の OSS、可視化の自由度、Prometheus 資産の流用
応援スタンスの記事でも、ここは正直に書きます。まず費用の床が違います。Grafana OSS は AGPLv3 で利用そのものが無料、Grafana Cloud の Free も無料で、一定量のアクティブ系列とログを 14 日保持する範囲までは請求が発生しません (2026 年 9 月時点・出典: Grafana Pricing)。Datadog の Free はホスト台数に上限がありメトリクス保持も 1 日なので (2026 年 8 月時点・出典: Datadog Pricing)、「無料で 2 週間分のグラフを眺めたい」段階では Grafana Cloud Free の方が広く使えます。次に可視化の自由度です。Grafana は Prometheus、Loki、各種データベース、そして Datadog 自身を含む複数のデータソースを 1 枚のダッシュボードに並べる設計で、Grafana Labs は Datadog のメトリクスを Grafana から照会して可視化するデータソースプラグインを公開しています (2026 年 9 月時点・出典: Datadog data source for Grafana)。ダッシュボードの見せ方を細部まで作り込みたい、社内の複数の監視ツールを 1 画面にまとめたい、という要求には Grafana の方が向いています。最後に既存資産です。すでに Prometheus の exporter と PromQL のアラートルールが揃っている組織にとって、Grafana Cloud は宛先を変えるだけで資産を持ち込める選択肢で、Datadog へ移すには PromQL のアラートルールの書き直しが発生します。exporter が出すメトリクス自体は OpenMetrics 連携で取り込めます (2026 年 9 月時点・出典: OpenMetrics)。この 3 点、費用の床、可視化の自由度、Prometheus 資産の流用は、Datadog がどれだけ機能を足しても逆転しない構造的な差です。
Datadog が活きるのは Agent 1 本で収集からアラートまで済ませたいとき
Datadog の強みは個別機能の優劣ではなく、収集から可視化、アラート、相関までが 1 製品で完結している点にあります。Datadog Agent を入れると既定で 50 を超えるホストメトリクスが取れ、1,000 を超えるインテグレーションで対象を広げられ、Agent に付けたタグが全てのメトリクス / ログ / トレースに載ります (2026 年 9 月時点・出典: Why should I install the Datadog Agent on my cloud instances?)。Prometheus + Grafana でこれと同じ状態を作るには、exporter の選定と配置、スクレイプ設定、ラベル設計、Alertmanager の配管を自分で組む必要があります。この差が効くのは次の 3 条件です。第一に、障害調査がメトリクスだけで終わらないこと。「CPU が跳ねた」の次に「そのときのログ」「そのときの遅いリクエスト」へ同じタグで降りていく調査は、ダッシュボードとログとトレースが 1 つのデータモデルに載っている Datadog の方が短い手数で済みます。第二に、監視対象が増え続けること。ホスト単価の課金は「1 台増えたらホスト単価 1 台分増える」と誰でも見積もれる一方、系列数課金は新しいサービスが何系列出すかを事前に読みにくく、カスタムメトリクスの設計に慣れていない組織では請求が読めなくなります。第三に、監視専任者を置けないこと。SaaS の中でも Datadog は収集側 (Agent) まで面倒を見る設計なので、Prometheus の可用性も exporter の版も気にせずに済み、運用の負荷が最も小さい構成になります。逆に言うと、調査がメトリクス中心で完結し、対象が固定的で、監視専任者がいる組織では、Grafana 系の方が安くて自由という結論になります。それを認めた上で、横断調査と成長と少人数の 3 条件が揃う組織では、Datadog のホスト単価は「監視基盤の運用者 1 人分」を買っていると考えると採算が見えます。
損得を分ける変数は台数ではなく 1 ホストあたりの系列数
両社の単価を並べて金額を出す代わりに、どの変数が請求を動かすかを整理します。Grafana Cloud Pro のメトリクス費用は「基本料 + (アクティブ系列数 − 基本料に含まれる系列数) × 帯ごとの系列単価」で決まり、ホストが何台あるかは式に出てきません (2026 年 9 月時点・出典: Grafana Pricing)。Datadog のインフラ監視 Pro は「ホスト数 × ホスト単価」で決まり、カスタムメトリクスが割当に収まる限り系列数は式に出てきません (出典: Datadog Pricing)。つまり両者を同じ環境に置いたとき、Grafana Cloud の請求を動かすのは系列数、Datadog の請求を動かすのはホスト数で、どちらが安いかは「1 ホストあたり何系列出しているか」という比だけで決まります。この比が小さい環境、つまり 1 台あたりの系列が少ない環境では、台数を増やしても Grafana Cloud の請求は緩やかにしか増えません。比が大きい環境、つまりコンテナや独自指標で 1 台が多数の系列を出す環境では、台数が少ない段階から Datadog のホスト単価の方が安く収まります。
| 変数 | Grafana Cloud Pro への効き方 | Datadog インフラ監視 Pro への効き方 | 変数が大きいとき有利になりやすい側 |
|---|---|---|---|
| ホスト数 | 直接は効かない (系列を通して間接的に効く) | 比例して増える | Grafana Cloud |
| 1 ホストあたりの系列数 | 比例して増える (帯が上がると単価は下がる) | 割当内なら効かない。超えるとカスタムメトリクスの超過分が加わる | Datadog |
| 送信間隔の細かさ | 効く (アクティブ系列と 1 分あたりのデータポイント数の 2 要素で決まる) | 効かない | Datadog |
| ダッシュボードを見る人数 | アクティブユーザー数あたりの従量が効く | 効かない (ユーザー数課金なし) | Datadog |
| 監視対象の固定度 | 量が読めるほど基本料の枠内に収めやすい | 台数が読めれば見積もりが単純 | 固定的なら Grafana Cloud、増え続けるなら Datadog |
表の結論は、分かれ目が台数ではなく 1 ホストあたりの系列数だということです。コンテナが多い、タグの組み合わせが豊富、アプリ独自の指標が多いといったカーディナリティの高い環境ほど Datadog 側に寄り、ホスト 1 台が少数の系列しか出さない素朴な環境ほど Grafana Cloud 側に寄ります。自分の環境で判定するには、Prometheus を使っているなら現在のアクティブ系列数をホスト数で割るだけで比が出ます。Grafana Cloud の系列課金は公式 FAQ によればアクティブ系列と 1 分あたりのデータポイント数の 2 要素で決まるため (同出典)、送信間隔を細かくすると系列数が同じでも請求が増える点も覚えておく価値があります。表に含めなかった費目にも触れておくと、Grafana Cloud にはアクティブユーザー数あたりの利用者数課金があり、Datadog にはユーザー数課金がありません。ダッシュボードを見る人が数十人いる組織では、この差も判定に足して考えてください。
併用の現実解と、乗り換えを決める前のチェック
実務では二者択一にならないことも多く、公式に確認できる併用の道が 2 つあります。1 つは Grafana 側から Datadog のメトリクスを照会するデータソースプラグインで、既存の Grafana ダッシュボードを維持したまま Datadog のデータを並べられます (2026 年 9 月時点・出典: Datadog data source for Grafana)。もう 1 つは Datadog 側の Grafana インテグレーションで、これは Grafana サーバー自身の内部メトリクスを Agent のチェックとして収集し、Grafana の稼働状況を Datadog で監視するものです (出典: Grafana Integration)。前者は「見る場所を Grafana に残す」、後者は「Grafana を監視対象に含める」という別の用途なので、混同しないでください。乗り換えや併用を決める前に確かめる項目を 4 つに絞ります。
- 1. 1 ホストあたりの系列数 - Prometheus を使っているなら実測できる。1,000 前後か 5,000 超かで前節の表の列が変わる
- 2. 調査の起点 - メトリクスで完結するか、ログとトレースへ降りるか。降りるなら 1 製品の相関が効く
- 3. 監視基盤の担当時間 - 月何時間を誰が使っているか。時間単価を掛けた額を SaaS 料金と並べる
- 4. 利用者数 - ダッシュボードを見る人の数。Grafana Cloud は利用者数課金がある
4 項目のうち 1 と 3 は数字で取れるので、まずそこから始めてください。1 が 1,000 前後で 3 が小さいなら Grafana に残す判断は合理的です。1 が大きく 2 が「降りる」で 3 が読めないなら、Datadog のホスト単価は運用者 1 人分の保険として機能します。導入を決めた後の段取りは導入判断チェックリストに、料金の全体像は料金の読み解きにまとめています。
参考資料
- Grafana Pricing (Grafana Cloud 料金ページ)
- Grafana Labs Licensing (AGPLv3 への移行)
- Prometheus Overview (公式ドキュメント)
- Datadog data source for Grafana (プラグインページ)
- Grafana Integration (Datadog Docs)
- Why should I install the Datadog Agent on my cloud instances? (Datadog Docs)
- Datadog Pricing (公式料金ページ)
- OpenMetrics (Datadog Docs)